妊娠中の飲酒について
アルコールは胎盤から赤ちゃんに移行し、胎児性アルコール症候群(FAS:fetal alcohol syndrome)と呼ばれる多彩な奇形をともなう先天異常を引き起こします。
欧米ではFASの発生頻度は700~1,000の出生に1人とされ、母体のアルコール依存症により生じたFASは20年以上前から注目されており、アメリカでは児の精神発達の遅れの原因の第1位とされています。
欧米諸国ではアルコール依存症を重要な社会問題として、さまざまな対策により酒類の消費量は抑制の方向にあります。
これに対してわが国ではもともと人種的にアルコールの飲めない人の比率が高く、女性の飲酒をいましめる習慣があり、FASの発生頻度は1万~2万人に1人と諸外国に較べて低い値でした。
しかし最近では「ウメェッシュ!」などと女性をターゲットにしたアルコール飲料のコマーシャルの氾濫にみられるように社会の飲酒に対する規制意識は全くなく、酒類の消費量は年々増加しており、特に若年の女性飲酒者が急増(20歳代女性の飲酒頻度は男性の飲酒率の90%!)しています。そのためわが国でも妊娠とアルコールの問題が注目されるようになりました。
胎児性アルコール症候群( FAS )とは
-
01 発育障害:出生前、出生後の発育障害
-
02 中枢神経の障害:知能障害、協調運動障害、乳児期の過敏性、小児期の多動、注意力不良
-
03 特徴的な顔面の形成不全:小頭、眼瞼下垂、下顎後退、上額低形成など
-
04 その他:心奇形、大陰唇形成不全、漏斗胸、口唇、口蓋裂、多指症など
それではどれくらいアルコールを飲んだら、FAS児が生まれるのでしょうか。
アルコールによるFASの発症機序については動物実験などで解明されつつあります。しかしどれくらいの量なら安全かという基準については人種による違いや個人差が大きいため明確なものがないのが現状ですが、純アルコールに換算して1日45~50mlの摂取で高頻度にFASを認めるという報告もあります。
ちなみに純アルコール50mlはビール大瓶2本にあたります。また妊娠期間中の総飲酒量が少なくても大量飲酒がFASのリスクを高めるとされており、妊娠に気づくまでの1ヶ月の頻回の大量飲酒が最も児に悪影響を与える可能性が高く、妊娠初期の数回の大量飲酒のみでも多動や注意力の低下を認めることがあります。
これから赤ちゃんをと思っているみなさんは深酒をしすぎないように注意しましょう。
また授乳中の女性がアルコールを摂取した場合、母乳中のアルコール濃度は30~60分後には母体血中の90%に達するため、赤ちゃんもアル中になってしまうことがあります。
現時点では妊娠中のアルコール摂取の明確な安全域がない以上、妊娠中、特に妊娠初期はいっさい飲酒をしないことが望ましいと思われます。
しかしご主人との晩酌はふたりをリラックスさせ、おなかの赤ちゃんにより多くの話しかけができるのであれば、たまにビール1本くらいのおつきあいはいいのではないかと思います。