漢方用語集
証(しょう)
証とは漢方医学における診断である。しかし西洋医学と異なり、糖尿病とか高血圧といった病名診断ではなく、漢方医学的な病態認識法、すなわち以下で述べる気血水、陰陽、虚実、寒熱、表裏、五臓、六病医などの基本概念と漢方四診と呼ばれる診察法(望診:患者の顔色や舌の状態、体格などを注意深く観察する / 聞診:音声、呼吸音、体臭や排泄物の臭いなど聴覚、臭覚による診察 / 問診:質問による診察 / 切診:触覚による診察。脈診と腹診がある)により診察し証を読んでいく。
随証治療(ずいしょうちりょう)
証に合わせた漢方薬を処方する。
気血水(きけつすい)の理論
漢方では生体の変調を気、血、水の三要素の量や流れの障害とみる。
血、水は陰に属し陰液とも呼ばれ、気は陽に属し陽気とも呼ばれる。気は陰液の滋養によって機能が高まり、血、水は気の働きにより生成と循環を繰り返す。また人体の機能面を陽気 、物質面を陰液と呼ぶ。
気(き)
気とは地球上に普遍的に存在するエネルギーであり、体内をめぐって生命現象の根源となるものである。また神経系、内分泌系のような情報伝達系の機能に相当する。
現象的には自律神経系の異常や空気の停滞などにより引き起こされる病状であり、気の持つ“上昇、変動”という性格に起因する。
気虚(ききょ)
気力が衰え食欲のない状態すなわち胃脾虚の症状である。
顔色は青白く光沢がなくだるい、疲れる、昼間の眠気といった脱力感、倦怠無力。
補気(ほき)
気虚証の状態を治療すること。
気滞(きたい)
体内の気の運行がのびやかでなく体の一部に滞る状態。のどのつかえ感やうつ状態などと関連する。
気逆(きぎゃく)、気の上衝(じょうしょう)
気が上方につき上がり下方に流れなくなっている状態。のぼせ、ほてり。
気欝(きうつ)
気の上衝に閉塞機転が加わることによって生じる。ものがつかえる、胸が詰まる感じ、イライラして怒りやすい、食思不振、生理の不調などを示す状態。
理気(りき)
気を巡らせ気滞と気逆、気虚を治療する作用。
血(けつ)
気の一部が液化し、赤色の体液すなわち血液とその代謝産物である。
自律的に全身を巡り栄養を与えるが気によってさらに高次の制御を受けている。血の持つ性質は“停滞、下降”である。血は陰に属するので陰血とも呼ぶ。
血虚(けっきょ)
血の栄養、滋養作用が低下した結果痩せる、顔色不良、皮膚に張りがない、手足のしびれなどがみられる状態。貧血。
補血(ほけつ)、養血(ようけつ)
血虚証の状態を治療すること。
瘀血(おけつ)
血液が停滞して起こる病態であり、血の停滞性により循環障害を来すことによる。
肩こり、動悸、頭痛、顔面紅潮、月経痛など更年期症状、月経異常など女性特有の症状は瘀血による場合が多い。
瘀血の状態を取り除く作用を駆瘀血作用。瘀血状態の治療に用いる薬剤を駆瘀血剤という。
血の道(ちのみち)
漢方独特の用語で月経に関連する各種疾患。月経痛や更年期障害、妊娠出産に関するトラブルの原因。
気血両虚(きけつりょうきょ)
気虚と血虚が同時に存在する状態。気血双補をはかる。
水(すい)
無色の体液を水または津液(しんえき)と呼び、血漿、リンパ液、汗、尿などに相当する。
水は血から分かれたものであるから“停滞、下降”の性格を持つ。
水毒(すいどく)、水滞(すいたい)
水分の滞りで体液の偏在した状態であり、浮腫、関節腫脹、腹水、胸水などの水分貯留状態と水の排泄異常としての、尿量減少、排尿遅延、などの排尿異常、唾液、鼻汁、発汗過多などの分泌異常に分けられる。
自覚症状としては頭重、めまい、口渇、こわばり、下痢、動悸、耳鳴りなどがあげられる。
陰陽論(いんようろん)
古代中国では自然界の様々な事象には陰と陽すなわちプラスとマイナス、表と裏の二面性があるとする。
漢方医学では人間の病態も陰は鎮静的で気力が低下し、身体が冷え、胃腸が動かず、倦怠感が強い状態で、陽は活動的でイライラし身体がほてり、発汗し動悸がして眠れないような状態をさす。
この陰陽の二元論が発展し、虚実、表裏、寒熱などの二元的病態把握法が発展した。
陰証(いんしょう)
病気の侵入に抵抗できない状態。新陳代謝が低下した冷えている状態。
陰虚(いんきょ)
からだの構成成分の液体(血液、体液など)が不足した消耗状態。冷やす力が不足してほてりやすくなった状態。
陽証(ようしょう)
病気の侵入に抵抗できる状態。新陳代謝がたかまった状態。つまり熱がある活動状態。
陽虚(ようきょ)
気の不足が進行して体内のからだを温める力も不足するようになった状態。
虚実(きょじつ)
同じ病邪に侵されても個体の免疫力により闘病反応は異なる。
漢方医学では反応の弱いものを虚、抵抗力が十分備わっている状態を実とする。すなわち虚は精気の低下した状態で、補法をもって治療にあたる。
実は邪気が盛んな状態で、瀉法をもって治療にあたるのが原則である。
虚証(きょしょう)
中国漢方では身体になくてはならない機能や物質が不足した状態のことを指し、病気に対して抵抗力がなく、体力が低下しており闘病反応が弱い状態。
気虚、陽虚、血虚、陰虚がある。虚証の場合はまず体力向上作用、健胃作用、からだを暖める作用のある漢方薬、補法を用いる。日本漢方ではきゃしゃで、虚弱な体質のひとを虚証とする。
実証(じっしょう)
中国漢方で実とは病気を引き起こす原因が盛んなことで、実証とは外から侵入した病気の原因、ストレスまたは体内から発病因子が生まれそれら病気の原因が引き起こす病変のことを指す。
この証のひとは病邪に侵されたときの闘病反応は強い。治療には瀉法を用いる。日本漢方ではがっしりとして活力旺盛なタイプのひとを実証とする。
虚証
・きゃしゃ、やせ形か水太り
・体力なし
・顔色が悪い
・腹力が軟弱
・病気の症状が弱く穏やか
・自然に汗が出る
・栄養状態不良
・食べるのが遅い
・過食すると不快で下痢をしやすい
・暑さ寒さに弱い
・気力がない、疲れやすい、回復が遅い
・ストレスに弱い
・眼光、音声に力がない
・下痢しやすい
・精神過敏、悲観的
・がっちり、筋肉質、堅太り
・体力あり
・顔色がよく、つやがある
・腹力が充実
・病気の症状が強く激しい
・汗がでない
・栄養状態良好
・食べるのが速い
・過食しても平気
・寒さに強い
・気力がある、疲れにくい、回復が速い
・ストレスに強い
・眼光、音声に力がある
・便秘しやすい
・情緒安定、楽観的
実証
・体力なし
・顔色が悪い
・腹力が軟弱
・病気の症状が弱く穏やか
・自然に汗が出る
・栄養状態不良
・食べるのが遅い
・過食すると不快で下痢をしやすい
・暑さ寒さに弱い
・気力がない、疲れやすい、回復が遅い
・ストレスに弱い
・眼光、音声に力がない
・下痢しやすい
・精神過敏、悲観的
・体力あり
・顔色がよく、つやがある
・腹力が充実
・病気の症状が強く激しい
・汗がでない
・栄養状態良好
・食べるのが速い
・過食しても平気
・寒さに強い
・気力がある、疲れにくい、回復が速い
・ストレスに強い
・眼光、音声に力がある
・便秘しやすい
・情緒安定、楽観的
中間証(ちゅうかんしょう)
日本漢方的な考え方で、概念ができたのは昭和になってからである。
中国漢方で実証か虚証かは患者さんのその時点での病態を捉えて用いるが、日本漢方的な「実証のタイプ、虚証のタイプ」といった用い方をする場合「中間のタイプ」に相当する。
寒熱(かんねつ)
寒熱の意味するところは、基本的には急性疾患の経過における自覚症状、手足などの温度感の表現であり、熱は冷ます、寒は温めるというのが方針である。
寒は新陳代謝の低下した状態で病に対する防御機能が低下し冷えを感じる状態であり、熱は感染症の初期のような発熱や炎症に相当する。また表裏の
概念と融合して表熱、裏熱、裏寒などとなり慢性疾患にも応用されている。
熱証(ねっしょう)
発熱やほてりを伴う状態。
寒証(かんしょう)
冷えを感じる状態。
一般的に「陽」は「熱」、「陰」は「寒」という認識が一般的である。
またあくまでも全身的にとらえることが重要で全身状態は寒で局所は熱ということもある。
虚熱(きょねつ)
病気に対してからだの抵抗力が無く体力が低下している身体状態で熱のあるもの。
陰気が不足しているため相対的に陽気が余り熱が出る状態。
脱水状態の病人が顔を紅潮させ暑がっているような場合で熱証にみえるが実は「寒」の所見である。
実寒(じつかん)
外から侵入してきた寒さによってからだを温める作用が阻害され冷える状態
表裏(ひょうり)
漢方医学では皮膚、筋肉、関節、神経など身体表層部(外胚葉系)を表、身体深部、内蔵を裏、その中間の肺、肝臓などの横隔膜周辺の臓器を半表半裏と定義する。
六病位分類の太陽病期、すなわち感染直後の悪寒、発熱、関節痛などは表の症状であり発汗によって病邪を追い払う。
表証が過ぎると、悪寒はなくなり気管支症状や季肋部の不快感、消化器症状、少陽病気は半表半裏の症状であり清熱剤を用い炎症を抑える。
さらに病期が進み病邪が身体の深部まで進行した病態を陽明病期とし、裏証に相当し、瀉下剤を用い消化管から病邪を追い払う。
六病位(ろくびょうい)
漢方では病態を固定的にとらえるのではなく常に流動的に考える。
発熱性疾患の時間的な進行を発病初期の悪寒や発熱が現れる太陽病期から、少陽病期、陽明病期、太陰病期、少陰病期、厥陰(けっちん)病に分類する考え方。
五臓六腑(ごぞうろっぷ)
五臓とは肝、心、脾、肺、腎の5つであり五行学説すなわち木、火、土、金、水の考え方に基づいている。
五臓は西洋医学の解剖学的な名称ではなくそれぞれが属する機能単位を代表する名称である。
六腑は管腔臓器である胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦(三焦に対応する臓器はない)を指す。
脾胃虚(ひいきょ)
脾、胃すなわち消化機能が低下している状態。
さらに全身倦怠や無気力症状(気虚)が加わり胃脾気虚となる。
腎虚(じんきょ)
腎の精気不足で中医学では腎陽虚と腎陰虚にわけている。
下肢の筋力低下や腰痛、多尿や頻尿、手足の循環障害など、また中高年における精力減退、耳鳴り、脱毛、歯のぐらつき、免疫力低下、記銘力低下。女性特有なものとして生理不順、不妊、流産などがおもな症状である。
補剤(ほざい)
生体に不足したエネルギーを補う薬。消化機能や免疫能を高める。
虚弱体質や、老化に伴う機能低下の改善。人参、黄耆、地黄など。
補腎剤(ほじんざい)
腎虚を補うために投ずる薬剤。
参耆剤(じんぎざい)
人参と黄耆が配合された方剤「人参は中を補い、黄耆は気を益す」として胃腸機能の低下した、疲労倦怠を訴える慢性病患者の各種症状に用いる補剤として重要。
人参剤(にんじんざい)
人参は健胃、強壮、代謝促進作用などを有し虚証の治療には重要である。人参湯が代表的な方剤。
行気祛疾(ぎょうききょしつ)
気を巡らせ、去痰 痰を取り去ること。
痰とは水分代謝が異常になり停滞して生まれた湿が、からだのある部分に集まってできる粘稠な物質で、気や血の流れを妨げる。脾胃で生まれ、肺にたまりやすい。
温性理血(おんせいりけつ)
からだを温めて血の運行を調節する。
上熱下寒(じょうねつげかん)
下半身が冷え、気が上半身に行き過ぎ熱を持った状態。
清熱養血(せいねつようけつ)
清熱、補血、養血参照。
清熱(せいねつ)
寒涼の薬物を用いて熱病を治療すること。
瀉下(しゃげ)
大便をくだすこと。
利水(りすい)
からだの水滞を調整してそれによる病的状態の改善をはかること 西洋医学の利尿とは異なる。
胸脇苦満(きょうきょうくまん)
みぞおちから脇腹にかけて重苦しく張っている状態。押すと抵抗や痛みがある。
胃内停水(いないていすい)
腹診で上腹部を指でたたくとポチャポチャと音がするような場合、胃内停水があるとする。