早産、破水の原因‥‥絨毛膜羊膜炎
わが国の早産率は約5%で、近年は増加の傾向にあります。
周産期医療が進歩した現在でも早産は周産期死亡原因の75%を占め、32週未満で生まれた赤ちゃんの20%に何らかの障害が残る可能性があります。(ちなみに早産とは妊娠22週以降37週未満での分娩のことです。)
早産の原因はなんでしょうか。双胎や羊水過多など子宮内容が大きくなり子宮に負荷がかかる場合や子宮筋腫、頸管無力症など子宮自体の異常はたしかに早産の原因になります。
しかし最大の原因は細菌による感染『絨毛膜羊膜炎』CAM:Chorioamnionitis によるものです。
腟の自浄作用
腟の中にはいつも常在菌とよばれる細菌、いわゆる善玉菌が存在します。この常在菌:Lactobacillus 桿菌(乳酸桿菌)は腟内を酸性に保つ働きがあります。一般的に細菌は中性の環境を好むため腟内を酸性に保つことで異常細菌の増殖を防いでいます。この作用を腟の自浄作用といい、妊娠中はLactobacillus 桿菌が増加しさらに守りを強化しています。
しかし精液や血液、抗生物質の投与や免疫力の低下などにより腟内環境のバランスがくずれ、浄化作用が低下、消失すると異常な細菌が増殖していきます。
妊娠、非妊娠期にしばしばみられるカンジダ(真菌)腟炎も自浄作用の低下によるものです。
細菌性腟症
このように常在菌にかわって異常細菌が増殖した状態を『細菌性腟症』BV :Bacterial Vaginosis といいます。しかし細菌性腟症だけでは腟炎と違って症状にあらわれることがありませんが、異常細菌が頸管に沿って感染して行き赤ちゃんや羊水を包む卵膜にまで達すると『絨毛膜羊膜炎』と呼ばれ様々な病態を引き起こします。
また分娩時に赤ちゃんに産道感染を起こし肺炎や髄膜炎などを起こすことがあります。
すべての細菌が悪さをするわけではなく、絨毛膜羊膜炎を引き起こす細菌は約20種で特殊な病原体も含まれ、また産道感染で問題となるB群溶連菌(GBS)は早産の危険因子にはならないという報告も多くあります。
絨毛膜羊膜炎
絨毛膜羊膜炎はサイトカインという炎症を起こす物質などが子宮を収縮させるプロスタグランジンをつくり、これらが作用して子宮を収縮させるとともに頸管を熟化、すなわち柔らかく、短く、子宮の出口を拡げお産のときと同じような状態にして行きます。
また炎症を起こした組織には好中球という白血球の一種が集まりエラスターゼという酵素を放出します。
このエラスターゼが卵膜のコラーゲンを溶かすことにより卵膜が破れ破水してしまいます。このような病態が重なって早産に至ります。
また羊水や胎盤を通して赤ちゃんにまで感染が及んだり、 常位胎盤早期剥離(分娩前に胎盤がはがれてしまい、胎児死亡、母体死亡を引き起こす)の原因になることがわかっています。
妊婦における細菌性腟症の頻度は10~30%とされ、細菌性腟症では早産や低出生体重児出産となる頻度が40%増加し、前期破水の頻度が10%増すといわれています。
しかし絨毛膜羊膜炎となっても無症状のことが多いため早産の予知が難しい一因となっています。症状としてはおりものの増加や悪臭、子宮の圧痛や発熱です。
とくに初期症状としておりものの状態の変化に注意し、これらの症状がみられたらはやめに受診をしてください。
妊娠中のセックスと絨毛膜羊膜炎
精液のなかには絨毛膜羊膜炎を引き起こす細菌や子宮を収縮させるプロスタグランジンなどが存在します。
そのため妊娠中のセックスはコンドームを用いるようにしましょう。妊娠中のセックスについては次回お話します。
検査方法と治療
細菌性腟症の段階で治療するのが理想的ですが、毎回原因となるすべての細菌に対しておりものの検査をするのは現実的ではなく、また抗生物質を投与しても早産率に変りがないとする報告もあります。
また前にもお話したように絨毛膜羊膜炎の初期診断は難しいのですが最近では癌胎児性フィブロネクチンや頸管エラスターゼといった免疫炎症物質の検査も用いられています。
治療は腟内の消毒や抗生物質の投与、ウリナスタチンという炎症を抑える作用のある薬剤の投与がありますが、炎症が拡がれば赤ちゃんに影響が及ぶ前に娩出させることもあります。
妊娠中は規則正しい生活習慣を心がけ、免疫力が低下することのないようにからだを健康に保つことが唯一の予防策といえるでしょう。